難民:国境を越えて他国に保護を求める人々 国内避難民:定住地を逃れ、国内で避難生活を送る人々 **************************************************** チャドのある国内避難民キャンプで、ある女性が、同じ境遇にある国内避難民と共に、100トン以上の小麦粉、塩、砂糖、油を配布してくれる人道支援者を待っている。 女性の名前はハワ・ブライム。チャド南東部に位置するゴズ・ベイダの町に近いコロマキャンプで生活している。 ハワ・ブライムは、配布される食糧がどのような経緯でキャンプにたどり着いているかは知る由もない。彼女はただ、支援者が配布する食糧を受け取り、家族10人に食事を与えているだけである。 この地域では、10万人以上のスーダン難民やチャド国内避難民のために、毎年5万トン以上の食糧支援が行なわれている。これらの食糧はどのように最終目的地まで運ばれるのだろうか。 プロセスはこうである。 まず、需要を確定し、どれだけの食糧が必要か計算、寄付を募り、食糧を購入し、運搬する。そして、支援のインパクトを評価し、支援者に報告書を提出する。これの繰り返しである。しかし、どの段階も非常に複雑なプロセスになっている。 WFPのカントリーダイレクターはこういう。「配給を受ける人々はもちろん、私たちのパートナーでさえも、食糧支援のプロセスを理解していない。多くの人は、私たちが食品店で食糧を買っていると思っているが、それは全く違う。」 実は、一つの支援団体が食糧支援を行なうと決めてから、その支援が実際に受益者の手に渡るまでには1年以上かかっている。 注文 NO. 81707503 ハワ・ブライムが今受け取ろうとしている食用油の配給が決定されたのは、15ヶ月前に遡る。USAID(アメリカ政府の開発援助機関、日本でいうJICA)の和平食糧プログラムダイレクター、ジェフリー・ボーン氏が、ワシントンの事務所で、925トンの食用油を支援する注文書NO. 81707503にサインした。 1ヵ月後、アメリカの農業省が、この注文を実施する入札募集を発表した。 最終的にシカゴの納入業者が落札し、油は《USA》と書かれた特製の銀製容器に入れられた。同時に、USAIDは運送会社の入札募集もかけた。 3ヶ月後、注文NO. 81707503はシカゴから発送され、3箇所の中継地を経由して、ヴァージニア州のノーフォーク港に到着した。そして、巨大コンテナ船2隻に積載され、アメリカを離れた。 最初の中継港であるスペインのアルヘシラス港で、油は別の少し小さめのコンテナ船に積み移された。 さらに1ヵ月後、注文NO. 81707503はアフリカの地に到着した。とはいえ、まだ油はキャンプから2235km離れたカメルーンのドゥアラ港にある。 鉄道輸送 ある土曜の午後、チャドの首都ンジャメナのWFP事務所で、ロジ担当官ヘンリク・ハンセンの机の上の灰皿が、タバコの吸殻の山になっていた。彼は、食糧支援の巨大積荷をどうやってドゥアラ港から内陸まで運ぶか頭を悩ませていた。 カメルーンには、鉄道が一本走っているため、これを利用することは可能だが、恐ろしく時間がかかる上、対応も迅速ではなく、さらに930キロ北方のンガウンデレまで走っていない。そのため、注文NO. 81707503がドゥアラ港税関を通り、貨物車に積載され、2回に分けてンガウンデレまで輸送されるまで1ヶ月もかかった。 注文NO. 81707503は、そこから更に1200kmも移動しなければならない。 道路輸送 ヘンリク・ハンセンによると、理論的にはのべ約6千台のトラックを使えば全ての輸送が完了するのだが、大半のトラックが途中で故障し使い物にならなくなる。そのたびにWFPは運送会社や人道支援団体と口論になる。さらに、トラックが途中で襲撃されることもあり、その恐怖から運転手が引き返すこともある。その他にも、直前の輸送キャンセル、地方行政の圧力も道路輸送の障害である。 注文NO. 81707503は、2つのトラック輸送隊に分かれてンガウンデレを出発し、チャドとの国境を通過し、ンジャメナから900km離れたチャド東部のアベシェ(東部の人道支援オペレーション中心地)に到着した。1つ目の輸送隊は到着までに3週間、2つ目の輸送隊は1ヵ月半を要した。 アベシェに到着すると、積荷はWFPの中央倉庫に一旦ストックされる。その後、難民キャンプや国内避難民キャンプを管轄する4箇所の配給倉庫に分配される。コロマキャンプのハワ・ブライムの手に届くことになる油は、キャンプから185km離れたWFPの配給倉庫に到着した。 配給準備 注文NO. 81707503が、キャンプから185km離れたWFPの配給倉庫から、コロマキャンプから4kmの距離にある町ゴズ・ベイダのWFP倉庫にトラック輸送されるまで、さらに6ヶ月がかかる。 ワシントンDCの事務所でNO. 81707503の注文書にサインされてから15ヶ月が経過した。 コロマキャンプに配給される2日前、人道支援団体の担当者たちがゴズ・ベイダ地域の国内避難民キャンプのチャド人避難民リーダー25名を呼びミーティングを開いた。そこで、各キャンプの配給日や配給量が伝えられた。 その時、担当者がリーダーたちに、配給対象者はリストに名前を登録してある国内避難民に限ることを伝えた。前回の配給では、必ずしも国内避難民とは言えない人も受け取っていた。配給日前になると、キャンプ内のこれまで無人だった建物・テントに人が住み始める。これらの人々は、配給日に食糧を受け取れないと、人道支援団体の配給担当者を脅すことがある。ミーティングでは、このようなことが起こらないよう各キャンプのリーダーが保証してほしいことを伝えた。 朝8時半、コロマキャンプにトラックが到着した。100人以上が列を作って静かに待っていた。彼らは手に登録カードを持っている。 男性たちが、トラックから積荷を降ろすのに1時間半かかった。積荷には注文NO. 81707503も含まれている。 配給が開始された。ハワ・ブライムも列に並び、自分の番をいまかいまかと待っていた。彼女の番が回ってきて、食料や油を受け取った。 そしてこう言った。 「これでは、全く足りないよ」 ~IRINの記事より~
by iihanashi-africa
| 2008-06-20 03:06
| チャド
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