途上国の開発協力に携わっているといつもぶち当たる課題がある。
「持続性」「農家の自立」という課題。 私は以前、緑のサヘル(http://sahelgreen.org/)というNGOで働いていた。住民の生活に組み込んだ形の緑を減らさない活動と緑を増やす活動を行い、同時に荒廃した土壌を回復させる伝統技術を使って農業生産の安定化を図るなど、住民自身による総合的で継続的な生活環境の改善支援を行っているNGOである。 現地で活動を進める際に、いつも代表が心構えとして話していたことがある。 「何本植えたかではなく、何人が植えてくれるようになったか」 「我々が支援をする際に、まず現地の方々の生活を立体的に知る必要がある。相互理解とは、支援者あるいは受益者であるという意識を、お互いが持たなくなること。そして、住民生活の現状を踏まえ、導入技術そのものによる効果だけではなく、技術の核心あるいは本質を理解してもらうことを狙いとする。」 緑のサヘルの活動は、住民の声にじっくりと耳を傾けて時間をかけて話し合うことが多かった。お互いに納得した上で、活動を進める。これが、持続する根付いた活動に繋がっていた。私の開発支援の原点がここでよかったと今でも思う。 *************************** 現在、私はSHEPアプローチ(Smallholder Horticulture Empowerment and Promotion)(「「売るために作る農業」アプローチ」)という、小規模園芸農家が自分たちでマーケット調査を行い、売れる作物を選択して、その後必要に応じて栽培技術を指導して、農家の収入向上を目指すアプローチの推進に携わっている。その中で、「人が自ら気付き、考え、決定し、行動していくために動機づけを行う仕組み」が重要だったと整理され、それを心理学の「自己決定理論」という学術的理論に基づいて説明されている。緑のサヘル時代の活動やその後関わったプロジェクトの活動も、心理学的な説明を聞くことで、なぜうまくいったのか、なぜうまくいかなかったのかが、感覚だけでなく頭で理解することができた。 農家の行動変容や心理的変化は、途上国開発に関わっている人なら誰でも経験があり、それぞれが関係者のモチベーションを高めるために、工夫をしている。しかし、その工夫はプロジェクトの成果としては見えてこないため、他と共有されることはほとんどなかった。個人の暗黙知として蓄積されていたこれらの取り組みを、事例を挙げながら心理学的に説明を加えた教本が作成された。 大変興味深いので、ご関心のある方はどうぞご一読を。 日本語版 http://libopac.jica.go.jp/images/report/12264172.pdf 英語版 http://libopac.jica.go.jp/images/report/12092193.pdf 仏語版 http://libopac.jica.go.jp/images/report/12092201.pdf にほんブログ村
by iihanashi-africa
| 2016-10-09 20:00
| 日本
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Comments(4)
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Ishikawa
at 2016-10-10 20:26
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共有ありがとうございます。実は同じように心理学を現場に利用して、農家の嗜好性が外部からのバイアスでどの程度制御されるのか検証しようと思っていました。先を越されてしまいましたね。
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iihanashi-africa at 2016-10-11 21:54
ishikawaさん。ご無沙汰です!あまり詳しくはないのですが、心理学にもいろいろな理論があって、この教材は「自己決定理論」に基づいています。自らがそれを行いたいから行動するようになるという自律性や内発的動機の理論です。是非、ishikwaさんの検証も進めていただき、機会を見て教えてください!!!
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Ishikawa
at 2016-10-13 23:22
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ありがとうございます。次期フェーズには何かしら入れ込んでみようかと。私も素人、というかミーハーで「スタンフォードの自分を変える教室」を読んで、彼女と共同研究をできないかな、と考えておりました。自己決定理論も出てきますし、意志に積極的に働きかける事で、農家のやる気にバイアスをかけてみるという構想です。しかし、一歩間違えれば、思想誘導にもなりますし、私の考え方・やり方が必ず正しいとは限りません。で、二の足を踏んでいるのです。そういえば、セネガルに近々移動されるとか、それを聞いたMさんはセネガルでSTRPSを出すとか言ってました。私も次期フェーズはAVEC-Senegalにしようかな。SHEPアプローチとAVEC-BFのスキームは共に不足している部分を補えるので、相性がいい組み合わせと思い、岡田さんに提案してみましたが、どうなんでしょうかね。
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iihanashi-africa at 2016-10-15 20:49
ishikawaさん、私がいないところでセネガルの話題で盛り上がってますね~。
確かに一歩間違えれば思想誘導になってしまう危険性があるのは、理解できます。実践もなく、「このやり方を信じれば収入が上がる」、あるいは「この技術を使えば生産があがる」と名前だけ有名になって先走ってしまうと危険な気がするので、すべては実践のみですね。農家さんが自分たちで決めて実践してうまくいかなかった時は、責任転嫁をせずに、修正しようとしたそうです。目指すは、できるだけ支援に頼らずに自立していくように「自然としむける」ことですかね。
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