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『アルカイダから古文書を守った図書館員』
9月に休暇で日本に戻っていた時に、面白そうな本を見つけて買って帰ってきた。1週間前に読み始めたのだが、読み始めから興味をそそり、読み終わるまでは毎日続きが気になり、帰宅して読むのが楽しみになっていた。


『アルカイダから古文書を守った図書館員』

西アフリカ・マリ共和国中部のトンブクトゥの図書館員の実話である。
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以下、本の中の文章(主に訳者あとがき)を引用しながら紹介。

トンブクトゥはサハラ砂漠の南縁に位置し、町全体が世界文化遺産に登録されている。12世紀初頭に交通の要衝として開け、15世紀末から16世紀にかけては黄金時代を迎えて栄華を極めた。とくに学問の都としての名声は世に鳴り響き、自由で開放的な文化が息づくことでも知られた。

1964年、ユネスコの代表団がトンブクトゥで会議を開いた。ユネスコの歴史家は、かつてこの地を訪れたふたりの旅行家の文章を読んでいた。ふたりとも中世で最も有名な旅行家で、14世紀から16世紀にかけて現在のマリにあたる地域を旅行している。どちらも、トンブクトゥでは写本制作と書物収集が盛んに行われていたと記している。かねがねヨーロッパ人の歴史家や哲学者は、アフリカの黒人は「文盲」で「歴史をもたない」と主張してきた。ところが、トンブクトゥの古文書は正反対の事実を告げている。膨大な数の歴史書や詩集、医学書や天文学書が、かつて図書館や市場に、そして自宅に誇らしげに飾られていた。

しかし、そうした書物は、町がその後様々な国に支配されるにつれて地下へと潜ることになる。代々個人の手で密かに何世紀も守り継がれたものもあれば、略奪や破壊の憂き目をみたものもある。隠され、埋められ、その過程で所在不明になったものもある。このトンブクトゥの古文書にふたたび光を当て、失われた伝統を蘇らせるべく生涯をささげているのが、主人公のハイダラである。

あるとき、ハーバード大学の教授一行がトンブクトゥを訪れた。ハイダラはトンブクトゥにおける古文書の歴史を話して聞かせた。14世紀にトンブクトゥにサンコーレ大学が誕生し、当時は2万5千人もの学生がおり、傑出した学者を綺羅星のごとく輩出したこと。黄金時代には12の名家がトンブクトゥの写本の大半を集めたこと。16世紀末にモロッコ軍の侵略によって古文書のほとんどは地下に潜ったものの、収集家の子孫の手で400年のあいだ守り伝えられてきたことも説明した。ハーバード大学の教授はこう表現している。「人生であれほど感動した日はそうありません。古文書を手にして、胸が震えました」

ハイダラは散逸した古文書の発掘と保護に涙ぐましいまでの努力を傾け、古文書図書館の設立にも尽力する。そうした活動の甲斐あって、トンブクトゥはアラビア語の古文書保存の世界的な中心地のひとつとして復興をとげていき、町全体で約38万冊が収蔵されるまでになった。しかしそのころ、町の北に広がるサハラ砂漠にイスラム過激派が進出する。最終的にトンブクトゥは過激派の手に落ち、市民は厳しい統制下におかれる。テロリストたちは町の図書館に侵入して、古文書を燃やした。ところが焼失したのはごく一部で、ほとんどは無事だったことがのちにわかる。危険を察知したハイダラが、命を賭けて一大救出作戦に打って出ていた。この作戦が臨場感あふれる文章で書かれている。

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トンブクトゥの古文書の存在とその重要性を知るだけでもとても貴重な本なのだが、実は私にとってそれ以上に興味深かったことがある。それは、サヘル地域で活動するイスラム過激派のAQIMやアンサール・ディーンとそれを率いるリーダーたちの背景、2013年にあわやマリ全体が過激派の手に落ちるかもしれないと危機感を募らせていたときのフランス軍の介入など、調査やインタビューを重ねて事細かに記述されていたことである。

本のタイトルからすると、ハイダラの古文書救出作戦がメインだと思いきや、実に本の5分の4はイスラム過激派とマリ北部の戦闘の描写に割かれている。

2013年1月、フランスの軍事介入が始まったころ、私はブルキナファソの首都ワガドゥグで、自分の家の上空を飛び交う軍用機の爆音を聞いていた。そのころに、マリ北部のイスラム過激派の記事を書いた。この本を読んだ後に自分の記事を読み返すと、知識がいかに浅かったかが分かる。

マリ北部のイスラム過激派グループとは

このあたりの情勢に興味がある方には、とてもお勧めしたい本である。




by iihanashi-africa | 2017-10-11 04:43 | マリ | Trackback | Comments(0)
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