今年の難民映画祭でサブサハラアフリカが舞台となっていた唯一の映画を見に行った。 ノーベル平和賞候補に過去2回名前が挙がっているコンゴ民主共和国の産婦人科医ムクウェゲ医師(Denis Mukwege)のドキュメンタリー。30年間、ルワンダとブルンジとの国境に接するコンゴ民主共和国東部の南キブ州のブカブBukavuの病院に勤めている。 コンゴ民主共和国の特に東部では、2000年以降、約50万人の女性がレイプの被害に遭ったと言われている。ムクウェゲ医師はこれまでに4万人の女性の手術をしてきた。 映画の紹介映像 つい先日までご本人が来日しており、様々な大学で講演を行っていた。 映画は、衝撃的だった。 尿と便が同じところから出てくるようになってしまったり、8歳の少女が内臓が傷つくほどのレイプをされたり。もう一生女性としての大事な機能が使えない状況になる。自分に置き換えると寒気が止まらないし、おぞましさと共に怒りしか込み上げない。 「レイプは最も効果的な武器」という表現があった。レイプというのは、男性の欲求を満たすためにすることだと思っていたため、私には「武器」の意味がよく理解できなかった。しかし、下にリンクを貼った別の番組やムクウェゲ医師のインタビューを聞いてやっと理解できた。村を崩壊させるために手っ取り早い方法だというのだ。村の全ての女性をレイプする。子供や夫や隣人の目の前でレイプするのだ。夫は守れなかった嘆き、女性はそのトラウマから立ち直れない。その村の中で生きていけなくなる。村は崩壊する、そういう意味で、「武器」なのだ。 映画を見る前は、レイプは兵士によるものだけかと思っていた。1994年から始まったルワンダの紛争に伴い、コンゴ民主共和国東部で反政府活動を始めた勢力による横行から始まり、そこからコンゴの兵士たちも同じように「武器」を使い始めた、という問題だけだと思っていた。しかし、ドキュメンタリーを見たら、問題はもっと複雑であることを知った。 鉱山資源が豊富な地域。その資源を求めて村を襲う隣国の兵士たち。またそれとは別に、コンゴ民主共和国では、今、女児の性器や子宮を奪って祈ると長生きしたり富を得られるというような思想もあり、伝統的な呪術師が助長しているという。 タンザニアをはじめとしたアルビノ狩りの話を思い出した。アルビノの体の一部が健康や権力、幸福をもたらすと主張する呪術医を信じてアルビノ狩りが起こっているのだ。 タンザニア映画「White Shadow」:アルビノ狩りの現実 ********************** ムクウェゲ氏は当初は、フランスの大学で小児科を専攻していたそう。しかし、コンゴの病院でインターンをしたときに、出産の時に亡くなる女性の数の多さにショックを受け、産婦人科になることを決めたそう。それから30年間ブカブの病院でレイプされた女性の手術を続けるが、レイプ後の女性を治すだけではなく、レイプそのものを減らす活動をしなければならないと、立ち上がって声をあげるようになった。 しかし、その活動は危険と隣り合わせの活動だった。 2012年に国連でスピーチをするはずだったが、当時のコンゴ民主共和国の保健大臣に呼び出されて、スピーチを中止するよう圧力がかかり、更に家族にも身の危険が及ぶかもしれないと脅されたため中止せざるをえなかったという。 その後、ある日自宅に戻ったところを5人の武装した集団に囲われ、自分の命は何とか助かったものの、家の警備員をしていた息子の友人を殺された。この事件以降、身の安全のため家族を連れてフランスへ亡命した。しかし、フランスやアルジェリアの病院で産婦人科の同僚医師30人と働きながら、ここでは産婦人科医がこんなにいるが、故郷のブカブでは私がいない今、一人もいないと思うと、私の居場所はここではないと思ったそうだ。 同時に、ブカブの女性たちがムクウェゲ医師の帰国を望んで立ち上がった。まず、コンゴ民主共和国の大統領にレターを書いた。しかし、返事がなかったため、国連事務総長宛にレターを書いた。それにも返事がなかったため、自分たちでムクウェゲ医師の飛行機代を集めようと、パイナップルなどの農作物を売って収入を集めて、運動を起こした。その動きはもちろんムクウェテ医師の耳にも入る。そして、今度は国連平和維持軍の警備を受けて帰国する。 これらの動きを受けて、たぶん司法も動かざるを得なかったのかもしれないが、形ばかりの裁判も始まった。まだまだ、先は長いかもしれない。 2014年11月にEUで表彰された際のスピーチで、「1週間前に北キブ州の村で50名以上の住民が殺戮に遭った。1カ月で200人の住民が残虐な殺され方をした」と話していた。ほんのつい最近の話である。こういうことが起きていることを日本では知られていない。 印象的だった言葉がある。ムクウェゲ医師が、男性たちに向かって訴えた。 「あなた方の妻、母、娘が強姦される中、あなた方男性はどこにいたのですか。女性が立ち上がって声を上げているのに、男性は何をしているのですか。私は先日、涙を流しながら2カ月の女児の手術をしました」 この呼びかけから、男性たちも声をあげるようになった。 この問題は、コンゴ民主共和国だけの問題ではない。被害の拡大を防ぐためには、世界が問題を認識して、動いていかなければならない。 コンゴ民主共和国東部の問題を理解するための参考となる、いくつか日本語の映像を見つけた。 コンゴの聞き ~知られざる真実~ 2011年 レアメタル争奪戦の犠牲者(1) 2009年 レアメタル争奪戦の犠牲者(2) 2009年 にほんブログ村
by iihanashi-africa
| 2016-10-17 03:36
| 日本
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