8月25日(木)
ザフィマニリ地方2日目。 予定通り朝6時起床。 村の朝は早く、6時前から子供たちの叫び声やとうもろこしを粉砕する音が聞こえる。6時前に目が覚めてしまったが心地よい目覚ましだ。だが、脳は起きているものの体が起きない。外は雨。今朝も相当冷え込んでおり、毛布から出たくない。ゆっくりと体を起こして外を覗くと、皆裸足で駆け回っている。半袖の人もいる。 反対側を眺めると、早起きの弟が毛布を被って散歩している。既にザフィマニリの人となっている。 子供たちは朝から元気だ。 この日、朝6時に起きたのには訳がある。 実は割礼の儀式があるのだ。 前日、ガイドさんが、この日の予定について幾つか提案してくれた。 ①朝早くファリアリヴ村を出発し、3つの村を通ってサカイヴ村へ到着する ②朝早くファリアリヴ村を出発し、2つの村を通ってサカイヴ村へ到着する ③朝ファリアリヴ村で割礼の儀式を見て、1つの村を通ってサカイヴ村へ到着する 似通った村を幾つも駆け足で見るよりは、一つ一つの村を堪能したい、そして割礼の儀式を見たいという3人の合意の下、私たちは提案③を採用した。私自身、割礼の儀式を見るのは初めて。 割礼で皮を切るのはお医者さんだが、ファリアリヴ村には医者がいない。村のはずれに病院はあるが、数年前に最後の医者が村を離れて以来、いるのはお産婆さんのみ(日本では助産師というのだろが、ここではお産婆さんという言葉の方がしっくりくる)。そのため、割礼を受ける男の子の家族は、ザフィマニリ地方のゲートウェイであるアントゥエチャの町から医者を呼んだ。そのお医者さんが到着するのが朝7時、そして到着後すぐに割礼を行うとのことだった。この割礼を見学させてもらうために私たちは7時に起きたのだ。それにしても、7時に到着するということは、4時にはアントゥエチャを出発しなければならない。ここの人々は真の朝方人間である。 朝、ガイドさんが、割礼を受ける男の子の家族に見学の許可をとってくれた。家の中に入って見るのは問題ないが、割礼を行っているところは写真撮影禁止。 早速彼らの家へ向かった。 割礼を待つ男の子。 家の中には、村の長老、キリスト教関係者、男の子の家族が集まり話し声が聞こえる。お祈りをしているようでもある。女性陣は外で待つ。お祈りが終わると、男の子が中に呼ばれた。私たちも入ってよいという許可が出たので皆と一緒にぞろぞろと中に入った。 男の子は周囲の大人に抱えられ、医者がためらわずにはさみを入れた。5分程度で終了。泣き続ける男の子を、お母さんらしき人が抱えて別の家へ連れて行った。 マダガスカルでは、割礼するだけでなく、切った皮をお祖父さんが食べる伝統がある。キリスト教では体の一部は決して捨ててはならないらしい。ザフィマニリ地方では、切った皮をトカガシという伝統的なラム酒に入れて飲み込むのが慣例となっていると聞き、その瞬間も見たかったが、今回は見逃してしまった。 とりあえず、宿に戻って朝食をとることにした。 ザフィマニリ特有の家は、このように竹を割ったもので出来ている。 穀物倉庫。 穀物だけでなく衣料品も入っているらしい。 大きなねずみ返しがついている。 朝食中、ガイドさんが、この村には伝統的なライターを作っている人がいると教えてくれた。伝統的なライターが何を指しているのか全く想像できなかったため、ライター職人さんの家&工房にお邪魔することにした。最初は、石と石をすり合わせたものか石と木の棒での火起こしかと思ったが、実際に見たら本当にライターだった。 左の方は、Razafimahatratra Paulさん。通称Jeanさん。本名がPaulなのに何故かJeanと呼ばれているあたり、とてもマダガスカルっぽい。何代も前から伝統的ライターを作っている職人さん。形もデザインも昔から変わっていないという。ライターの入れ物であるこの黒い木は、Varongyという木。本来は茶色だが、囲炉裏の上でこうして燻しているうちに黒くなる。とても貴重な木であり、なかなか見つからず2日間かけて探しに行く。 ライターの入れ物を開けると、クリスタルとかみそりの刃と綿の入った小さな筒が入っている。クリスタルと筒を右の写真のように持って、かみそりの刃をクリスタルにこすり付けると、左のように火花が散る。それが筒の中に入っている綿に燃え移って綿が赤くなる。かなり高度な技術で感動し、一つ購入してしまった。 職人さんの家を出て、もう一度割礼の儀式へ戻ると、祭りが始まっていた。この日のために別の村から運ばれてきた小さな発電機が活躍し、大音量で音楽が流れている。それに合わせ、女性たちがお米の入った入れ物を頭にのせて踊りながら、家の周囲を何周もする。割礼の日は、開催者が村の全家族に米と肉をおすそ分けすることになっている。 祭りは丸一日続くのだが、私たちは先があるので、名残惜しいが出発することにした。 その前に、村長から記録を書き残して欲しいと言われ、村長室を訪れた。これまでファリアリヴ村を訪れた観光客がメッセージを残す記帳があり、私たちも日本語でメッセージを書いた。今月は私たちが10組目の観光客で、記録を残している観光客の中で私たちがアジア人としては初めてだった。観光シーズンである8月に10組。少ない。朝日新聞の記事によると、もっと遠いところでは年に5人しか観光客が訪れない村もあるらしい。 さて、ファリアリヴ村を出発。 これから1時間かけて次の村、アンテテザンドゥルチャ村Antetezandrotraへ行く。 雨は一向に止まない。 この道はそれほど厳しくはなかったが、ぬかるんでいてよく滑る。一歩一歩慎重に歩く。アンテンテザンドゥルチャ村までは峠を下って上る。手前にうっすらと村が見えるので、いつ着くか分からない村を目指すよりは、気分的に楽だ。 アンテテザンドゥルチャ村はこの辺りでも工匠の多い村だという。先祖代々の技術や模様が受け継がれている。建築物や日常品の木材の表面(扉、窓、椅子、タンス、道具)のほとんどに、豊かな彫刻が施されている。やはり最も目を引くのが扉。一枚の大きな木の板の端から端まで美しい幾何学模様が彫られている。ファリアリヴ村の村長室の扉(写真左)が美しく、誰が作ったのかと聞くと、マジュンガで作られたという。もうザフィマニリではこれほどの木は見つからない。 アンテテザンドゥルチャ村には8人の木工職人がいる。今回訪れたのはそのうち5人の職人さんの家。家兼工房。残りの職人さんは畑に行っているという。幾何学模様のベースは定規とコンパス。ベースの線を引いたあとは躊躇いなくすーっと彫り始める。彫刻を専門とする職人さんもいる。息子がいる職人さんは簡単な彫刻を既に任せている。小学生くらいの男の子が学校の休暇中にお父さんと一緒に作っていた。 最後に訪れたGilbert Rakotomamnjyさん(右上)の作品に私たちは惹かれた。見た中では最も巧妙な模様だったと思う。鍋敷きやミニチュア扉、香辛料入れなど、美しい作品は沢山あったが、パリサンドラ(紫檀)の木で作られた鍋敷きとミニチュア扉を購入した。一枚1万5千アリアリという価格は村の物価からすると高めだが、紫檀という貴重な木で作られたのだから当然なのかもしれない。 朝日新聞の記事にも書かれていたが、代々木工彫刻を伝えてきたこの地には、もう木がない。どの職人さんに聞いても、木を探しに行くのに2~3日はかかるという。村から1日かけて森に行き、森の中から彫刻に使う貴重な木を1日かけて探す。そして1日がかりで戻ってくる。毎月1回探しに行ければいいほうだという。UNESCO無形世界遺産に登録されてからかその前からか、生長の早い松やユーカリが植林され、木材や燃料としての木はまだ確保されているかもしれない。ただし固有種の苗は調達が進まないらしい。少しずつ始めてはいるのだろうが、相当緊急に進めなければザフィマニリの無形遺産が絶滅してしまうような気がする。職人さんと話している限りでは、彼らも木がないという危機感は感じているものの、自分たちで出来ることは何かしなければならないと言う人はいなかった。それだけの余裕がないのかもしれないが、もう少し何か出来るのではないかと感じた。 午後3時頃、アンテテザンドゥルチャ村を出て、宿泊地のサカイヴSakaivo村へ向かった。途中、今朝のファリアリヴ村の割礼の儀式に出たという2人のサカイヴ村の住民に追い抜かれた。さすがにこれだけ雨が降ると傘を差すらしい。 1時間ほど歩いたら、正面の山の中腹に村が見えてきた。 これは絶景である。 村とそのすぐ上に雲に隠れる絶壁、そして村の下に広がる棚田。秘境。この感動は1枚の写真では表現できない。 これだけ苦労して美しい景色を見たときの達成感や満足感はそれほど味わえるものではないと思う。 サカイヴ村も、これまで見た村と同じような木造の家がところ狭しと立ち並ぶ。外国人が来たと興味津々の子供たちが窓から出迎えてくれた。 やはりここの窓や扉も幾何学模様。 明日は朝早く出発なので、温かいお茶を飲んだ後、早速木工職人さんたちを尋ねることにした。 サカイヴ村で有名なのがナイフ。刃は金属製だが、持つところと刃のカバーが木製で、幾何学模様が施されている。 夕食は、温かいスープから始まる。 寒いザフィマニリでは最高のメニュー。 昨日はとても寒かったので、今日は更に厚着して寝ることにする。 にほんブログ村
by iihanashi-africa
| 2010-09-16 07:50
| マダガスカル
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