私の関わるプロジェクトのサイトはマダガスカルの中央高地に位置する。2週間ほど前に現場出張へ行き、水田を見てまわっていたら、どこからともなく明るい音楽が聞こえてきた。トランペットと笛と太鼓の音。祭りでもあるのかと思ったら、一緒にいた人が、あれはファマディアナだと言う。
ファマディアナ(Famadihana)とは、先祖を敬い、墓の中から布に包まれた遺体を運び出し、感謝の意を込めて新しい布で巻き直す儀式。マダガスカルで最も有名な伝統儀式と言っても過言ではない。私も、マダガスカルに来る前に最初に教えられたのがこの伝統だった。 マダガスカルのお墓は、一族のご遺体が全て入る大きなお墓。石造りの白く立派な建物が丘の上にあったら、それはお墓。初めて見たときは、何かの倉庫かと思った。でも倉庫にしては手が込みすぎていると。このお墓の中に一族のご遺体が何体も入っているのだ。これは平均的なお墓の写真。 マダガスカルは、遺体をミイラ化する。白い布で包み、数年に一度7月から9月の乾季の間に布を巻きなおす。この数年に一度の儀式がファマディアナである。これはマダガスカル中央高地で行われる儀式で、海岸部では行われていない。ファマディアナを行うには相当の出費がある。最近、都市部ではファマディアナを行う家族が徐々に減少しているという。それでもやはり、農村部はまだまだ伝統信仰を受け継ぐ世帯が多い。 先日、プロジェクト秘書タタムさんの家族がファマディアナを行うということで、私も招待され参加してきた。一度実際に見てみたかった。 ファマディアナは通常1日~3日かけて行われる。数日かけて行われる場合は、1日目にご遺体をお墓から出し町へ運び、宴会場に並べて歌や踊りで敬い、翌日あるいは2日後にお墓へ戻すらしい。しかし、今回は1日で終わるファマディアナだった。 ファマディアナが行われる日は、パハンドロMpahandroと呼ばれる占星術者が決める。その日以外にお墓を開けると、近々身内に不幸が起きると言われているようだ。各家庭には“かかりつけ”の占星術者がおり、伝統行事はその方の指示を仰ぐという。 アンタナナリヴを朝6時45分に出発し、約120キロのサンバイナSambainaという町に向かった。 到着したのは午前10時。タタムさんの家に着いたとほぼ同時に、音楽が始まった。村のミュージシャングループが、トランペットやクラリネットなどの管楽器と太鼓で招待客を歓迎した。実は、前夜から祭りは始まっていたらしい。招待客や近所の子どもたちが音楽に合わせて踊っていた。 10時から食事が始まった。優に70人は座れる宴会場で、招待客が3グループに分けられ、代わる代わる食事を取った。70人×3回、つまり210人は招待客がいたことになる。まあ招待客と言っても、ほぼ全員身内。私みたいに全く関係のない人間が参加することはそう多くない。 この日の食事は、白ご飯と揚げ豚肉。そしてニンジンサラダ。実は、本当に申し訳ないのだが、美味しいといえる食事ではなかった。山盛りの白ご飯に豚肉が二欠片。少量のニンジンサラダは4人で分けなければなりません。山盛りのぱさぱさのご飯を何もつけずに食べなければならない。 ファマディアナの食事は、Vary be menakaという。沢山の油とご飯の意。おかずの肉に脂身の多い部分を使い、その油をおかずにご飯を食べる。脂がごちそうでもあるため、脂身の多い豚を使うことが多い。牛を調理することもあるらしいが。タタム家では、この日のために豚2頭を調理したらしい。ちなみにタタム家では、ご飯は女性が、肉は男性が取り分けると決まっているようだ。上の写真で男性が持っている緑の小さなバケツに豚肉が入っており、その左上の女性がご飯を分けている。 食事が終わると、タタム家の長と思われる男性が皆に感謝の意を伝えた。マダガスカル語なので、隣に座っていた運転手に訳してもらったら、最後に「皆さんが集まるこの機会にお伝えしたいのですが、2010年に家族会議があるので参加するように」と話していた。2010年とは、なんてアバウト。運転手にもう一度、「本当に2010年としか言わなかったのか、せめて2010年何月とは言わなかったのか」と確かめたが、やはり2010年としか言わなかったらしい。折角親戚一同集まったのだから、もう少し詳細を伝えてはと思ったのは私だけだった。 残ったご飯は、近所の子どもたちに分ける。 食事が終わると出口でKao-drazanaお香典(と言っていいのかな?)を渡す。その場で、名前と金額が香典帳に記入される。次回、別の人がファマディアナを行う際に、貰った金額と同じ額の香典を渡すのだそう。大体一人5千から1万アリアリ(250~500円)が平均だったようだ。 食事後、午後1時、お墓へ向かった。タタム家は全員お揃いの生地で作った服を着る。女性陣の服はこんな感じ。麦わら帽子もお揃い。 タタム家からお墓までは、距離にして7、8kmはある。町外れまでは踊りながら歩き、そこからバスに乗って移動した。 丘のふもとに到着し、ここから再び徒歩で丘の頂上を目指す。お墓の周りでは、飲み物(ビールやコカコーラなど)やお菓子が売られるため、売り子も一緒に頂上を目指す。ミュージシャンもお墓までついてくる。かなり急な坂を上りながらも音楽を奏でる。 200人以上がお墓の周りに集まれば、動けないほど混雑する。ふと、ある男性がお墓の上から大声で話し出した。今から外へ出すご遺体の名前を一人一人呼ぶのだ。ここで呼ばれなかったご遺体は外に出すことが出来ない。右側に、ござを丸めて持っている人がいるのが分かるだろうか。後で出てくるが、このござの上にご遺体を置く。 その間も、音楽は途切れることなく続き、皆踊る。 簡単に開けられないよう、頑丈に閉じられているお墓の扉を開くのは容易ではない。つるはしのような金属棒で周囲を削り、大人4人がかりでやっとこさ開ける。 お墓の中には誰でも入っていいわけではない。どのご遺体がどこに置かれているか分かっている人がおり、その人らが中に入って運び出す。外では順番に名前が呼ばれ、その家族がお墓の扉の前で待つ。ご遺体を掲げ踊りながら運ぶ人もいれば、抱え込み泣いている人もいる。それぞれの表現の仕方がある。 お墓から出したばかりの死者をござに巻いて運ぶ。 運び出されたご遺体は何体あっただろうか。多分15体はあっただろう。それぞれがお墓の周囲に散らばり、ござの上に並べられる。日本でも亡くなった方を北向きに寝かすように、マダガスカルでも頭と足の位置は重要らしい。私が見たところ、お墓の方向に足を向けていた。ミイラ化して遺体が小さくなり、見た目ではどちらが頭なのか分からなくなっていた遺体は、触って頭の位置を確認していた。 ご遺体は、ランバメナLambamenaという白い生地で包まれている。出てきたご遺体の生地は茶色に変色しているが、その古い生地の上から新しい布でご遺体を包み直す。この生地が一枚約4万アリアリ(2千円)はかかり、高いという。その生地で2重、3重にも巻く。 夫婦のご遺体を2体重ねて一枚の布で一緒に包む光景を見た。亡くなってから、こうしてまた一緒に眠れるこの夫婦は幸せなのかもしれない。涙もろい私は、この光景を見て目頭が熱くなった。 私が以前聞いた話では、お墓の中で誰がどの位置に置かれているか分かっている人がいるので、ご遺体には印が付いていないとのことだったが、タタム家では各ご遺体にこのように名前が書かれてあった。ボールペンで書かれているご遺体もあれば、蛍光ペンで書かれているご遺体もあった。ちなみに、写真のご遺体には「頭→」とも書かれてあった。頭がどちらか分かるように。これを見たときは少し微笑んでしまった。 綺麗に包まれたご遺体は、家族に担がれてお墓を一周し、お墓の中へ戻される。この写真は、お墓の入り口で大渋滞している様子。お墓の前で名前が呼ばれ、たまに渋滞の後ろの方にいるご遺体が呼ばれると混雑をかき分けて前へ進む。結構ほのぼのとした光景でもあった。 お墓からの帰りは、行きと違う道を通らなければならない。 全てが終わったのは午後4時。私たちは、その日中にタナへ戻らなければならなかったため、その場を離れた。残念ながらお墓の扉を閉めるところまでは見られなかった。 -------------------------------------------------------------------- ファマディアナの話を人づてに聞いていたときは、お墓から遺体を出すなんてと理解が出来ず、少し怖くもあったが、実際に小さくなった遺体を抱きかかえて泣いている人を見ると、5年毎に最愛の人に会えると思えば、これはこれで意味のある儀式なのかもしれないと思うようになった。 にほんブログ村
by iihanashi-africa
| 2009-09-29 06:19
| マダガスカル
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