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日本人に会ったことがないのに日本語を話すハッサン君の話
以前在カメルーン日本大使館に勤めていたころのちょっと感動する話
少し長いので、時間のない方は何回かに分けて読んでください。

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2003年のこと。ハッサンという男の子から大使館に日本語の手紙が届いた。カメルーン北部のアダマウア州のある村の中学生だった。ひらがなとカタカナを使い分け、簡単な漢字も使い、日本語と日本文化に関心があるということがA4の紙2枚にびっしりと綴られていた。彼はテレビで日本の映像を見たことがあるわけでもなく、日本人にも会ったことがないそうである。手紙によるとNHKの短波放送に仏語での日本語講座があるそうで、それを聞きながら日本語を学んでいるという。後で知ったことなのだが、彼はフランスのNHKラジオへテキストを送ってほしいと手紙を書き、送られてきたテキストを使って読み書きを勉強していた。首都から遠く離れた村の中学生がフランスに手紙を書き、そしてフランスからアダマウア州の彼の手元にテキストが届くことが如何に驚くべきことか、カメルーンに住んだことのある人だけでなく、アフリカを知る人なら想像できるだろう。

ハッサン君の手紙はとても印象的だった。彼の文章には、何故か合間合間に意味もなく「犬も歩けば棒にあたる」とか「猿も木から落ちる」などの諺が入っていたのだ。確かいざなみのみことがどうとかという表現もあったと思う。とても面白おかしく読ませてもらったが、とにかく日本が好きだということは伝わってきた。

この手紙を読んだ当時の日本大使が、「面白い男の子なので是非返事を書いてあげてくれ」と言うので、私が返信することになった。中学生で日本にこれほど関心を持つ若者がいることを嬉しく思うというような内容を書いたと思う。そして、大使館にあった日本語習得キット(カセットとテキスト)も同封した。

当時カメルーンでは、郵便物が紛失したり中身が盗まれたりするケースがあり、カセットテープを同封しても届かないのではないかという心配はあったが、しばらくたってから再びハッサン君から手紙が届き、「カセットとテキストをありがとうございます」と書かれていたのを読んでほっとした。

その後すぐ私は離任することになったため、私の後任にハッサン君の手紙を託した。

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離任してから1年後の2005年、私の後任からメールがきた。ハッサン君についてだった。

カメルーンでは毎年大使館が日本映画祭を開催しており、それまではヤウンデ、ドゥアラ、チャンの3都市のみで実施していたが、2005年はアダマウア州でも開催することとなり、大使が開会式に出席するためにアダマウア州の州都ンガウンデレまで出張した。そしてそのついでに、ハッサン君の村まで足を運ばれたとのことだった。ハッサン君の通う学校では、この日、盛大な式典が開かれたようである。

実はこの旅に、ハッサン君の話を聞きつけたCRTV(カメルーン国営テレビ)の取材班が同行し、彼の番組が制作されることとなった。私の後任からのメールは、その番組が放送されたことを伝えるものだった。なんとこの番組の中で、ハッサン君が「たけこしくみこさん、ありがとうございます」と私にお礼をしてくれているらしい。このメールを読んだときは本当に胸が熱くなった。

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それから更に4年後の2009年。マダガスカルに着任してから3ヶ月目のこと。携帯に、在カメルーン日本大使館に勤め始めた私の友人から電話がかかってきた。普段はメールのやり取りしかしていないので、突然の電話に驚いた。なんでも、ハッサン君が友人たちと「日本語クラブ」なるものを設立し、今度日本語スピーチコンテストを自分たちで開催するので、是非祝辞を書いてあげてほしいとのことだった。大使館へも招待状が届いたらしいが、残念ながら都合がつかないため祝辞を送る予定だそうだが、最初のコンタクトパーソンである私にも祝辞を書いてほしいとのことだった。久しぶりにハッサン君の名前を聞いただけでも嬉しかったが、あのハッサン君がここまで活躍しているとは思いもよらず、深い感銘を受けた。

そして、私が送った祝辞。

Medames et Messieurs,
Chers nos amis nippo-camerounais,

Je voudrais tout d'abord exprimer mes félicitations pour cette initiative du concours de Nihongo née parmi les jeunes de Ngaoundéré.

Depuis le premier contact avec M. Hassan il y a cinq ans, qui m’a émerveillé par son écriture japonaise exprimant sa passion pour le Japon, je n’ai jamais imaginé qu’un tel événement serait organisé aujourd’hui.

Vous savez combien il m'aurait été heureuse d'assiser à ce concours de Nihongo qui rassemble les brillants jeunes. Mais avec reconnaissance, je fais l’éloge de vos efforts considérables. Et avec tous mes voeux très chaleureux pour la réussite de cet événement, je souhaite l’évolution de cette premier initiative.

O-enshiteimasu.(応援しています。)


その後報告をもらっていないので、コンテストの様子は分からないが、成功裏に終わったことと思う。

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さて、ハッサン君の話はこれでは終わらない。

2009年7月、横浜市がアフリカの若者を招待するという企画を立て、カメルーンからも若者2名を横浜に招待したいと中等教育省に問い合わせがあった。大使館に勤めていた私の友人は、その書類を見て「ハッサン君にこそぴったりのプログラム」だと思い、中等教育省の担当者に話をし、ハッサン君を推薦してもらったそう。そして、ハッサン君は憧れの日本に初めて行くことができた。

日本滞在中、NHKの仏語ラジオ放送がハッサン君の日本滞在の様子を取材し、インターネットでも放送が聞けると連絡をもらった。でも私は何故かアクセスできずに聞けなかった。

ハッサン君は相当感動して帰ってきたらしい。

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私は、ハッサン君の活躍を耳にするようになってから、どうしてもハッサン君という人を見てみたくなった。実は、2003年に手紙でやり取りして以降、ハッサン君本人とは連絡を取っておらず、全て人づてに彼の話を聞いていた。だから、彼と話したこともなければ、顔を見たこともない。しかし、7年間も彼の話が私のところまで届き続けるのは何かの縁と思い始め、ハッサン君という人をもっと知りたくなった。

そこでまず思い浮かんだのが、2005年に放送されたCRTVのハッサン君の番組。この番組、とても好評でその後何度も再放送されたらしい。私は、この番組のDVDを手に入れようと決めた。

まず、ヤウンデのカメルーン人の友人に連絡を取り、CRTVで番組をDVDにコピーしてもらった。次に、運よくカメルーンを訪問していた日本人大学生にDVDを託してもらい、日本に帰ってから私の実家へ送ってもらった。そして今度は、これまた運よくマダガスカルへ来る方がいたので、ご自宅へ送ってマダガスカルへ持ってきてもらった。2009年10月、念願のDVDが手元に届いた。とても感慨深かった。

ハッサン君は、少しアラビア語訛りのフランス語で、日本語を学び始めたきっかけ、途中で挫折しかけたこと、近所の友人らに日本語を教え始めたことを語っていた。私も初めて知ることが多かった。カメルーンの北部は背の高く整った顔をした人が多いが、ハッサン君も例外ではなかった。

DVDで最も印象に残ったシーン。それは、ハッサン君の自宅の壁。一面に日本語が書いてあり、その中になんと、私の名前があった。壁の一角に「たけこしくみこ」とひらがなでフルネームが書かれていた。ありがとう。。。

この写真は、DVDの映像をスナップで保存したもの。壁の真ん中あたりに「たけこしくみこ」と書かれてあるのが分かるだろうか。
日本人に会ったことがないのに日本語を話すハッサン君の話_c0116370_510946.png


ちなみにこちらは、番組で紹介されたハッサンくんの日本語のテキスト。オリジナルの文章がどれか分からないくらいに書き込みがしてある。すごい。。。
日本人に会ったことがないのに日本語を話すハッサン君の話_c0116370_5124518.png


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そして、最終章。

2ヶ月前の2009年年末。私はカメルーンへ2週間旅行し、3日間だけ北部を訪れた。アダマウア州より更に北の北部州だったが、出来ることならハッサン君に会ってみたいと思った。

カメルーンへ行く前に、ハッサン君を知る方から彼の電話番号をもらい、初めて電話をし、数日後にカメルーンへ行くことを伝えた。同じ北部とはいえ、北部州州都とアダマウア州州都はかなり遠いため、会えるかどうか分からないが、とにかくカメルーンへ到着したら連絡すると伝えた。

しかし、カメルーンに着いてから北部州の旅行計画を立ててみたが、時間的余裕がなく私がアダマウア州へ行くのは難しい。またハッサン君も北部州へ移動するのは大変そうだった。なんとか努力してみたが、結局会えなかった。

今は、電話番号に加え、彼のEメールアドレスももらい、メールでやりとりしている。次回、カメルーンへ旅行する楽しみが一つ増えた。

新年には、ハッサン君からこんな写真が届いた。
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そしてこちらは日本に行ったときの写真だそう。
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今後も、ハッサン君の活躍が楽しみだ。

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by iihanashi-africa | 2010-02-22 09:19 | カメルーン | Trackback | Comments(10)
Commented by lazytown at 2010-02-23 02:16
おひさしぶりです!!
今回の話も、、ほおーーって、感激しました。。
すごいな。すごいな、すごいな。。感激して、ちょっと、重いが、字にならないのですけど、ほんとうに、IIHANASHI_AFRICA。。です!!
わたしも、これからの、ハッサン君の活躍がたのしみです!!
また、続きをかいてくださいね!!!
Commented by iihanashi-africa at 2010-02-23 13:20
こちらこそ、ご無沙汰していました。
以前からこの話は紹介したいと思っていたのですが、やっとのアップです。
ハッサン君、カメルーンにおける日本語の第一人者になってもらいです。そのうち、日本に留学できるといいですね。

また、経過を報告しますね!
Commented by montague at 2010-02-23 15:01 x
すごいですね。カメルーンの北部と言えば、ダガラ族の村にも近い訳ですよね、縁とは不思議な物ですね。お二人の奇跡的な縁と、ハッサンくんの努力に乾杯。こちらもあいたくなってきました。
Commented by iihanashi-africa at 2010-02-24 03:46
montagueさん、コメントありがとうございます。
ハッサン君にはほんと脱帽で、どうやって独学でここまで出来るようになったのだろうと今でも不思議です。周りに日本人がいないため、まだ聞き取りには慣れていないようでしたが、ベースがしっかりしていれば、会話はいつでも出来るようになると思います。

いつになるか分かりませんが、ハッサン君に会えたらまた報告します。
Commented by kjys1575 at 2010-02-24 17:05 x
こんにちは!一つの小さな出会いを大切にハッサン君の事を大事にした、くみこさんも偉いが思いました。私も二人の息子がいますが中学の頃は部活のサッカー・バレーボールの熱中していました。今は某一流会社に勤務していますが、親はアドバイスしますが本人
の意思で周りは応援しただけと思います。本当にくみこさんの応援があったからこんなに凄い事もできたと思います。
Commented by iihanashi-africa at 2010-02-26 03:13
kjys1575さん、暖かいコメントをありがとうございます。
人は真の努力をすると知らないうちに周囲が認めてくれるもので、ハッサン君の場合も、彼の努力が人を惹き付けたのだと思います。そしてその周囲の応援が更に彼の原動力になっているのかも。これからもハッサン君が頑張る限り応援していきます。
Commented by 海子 at 2010-03-06 16:46 x
素晴らしい!感動しました。私の息子はマダカスカルに赴任しています。いつも アフリカに思いやりのレポートを楽しみにしています。
無事故で元気に、仕事をして、沢山の人との出会いを体験できるように祈っています。
Commented by iihanashi-africa at 2010-03-09 06:20
ありがとうございます。このようなコメントを頂くと更新する楽しみが増えます。
人との出会いは日本でも大事にしたいと思いますが、折角異郷にいるのだから、文化の違う方、考え方の違う方、様々な宗教の方、多くの方と出会い、自分を成長させたいですね。
Commented by ワガのテレビ屋 at 2015-04-19 23:48 x
お久しぶりです。ワガのテレビ隊員です。

ハッサン君のお話、感動しました!
彼の自宅の壁、グッときますね。
私たちの少しの関わりで、一人の少年の人生を大きく変えるんですね。

ブログ楽しみにしていますね。

Commented by iihanashi-africa at 2015-04-22 22:42
おお、ブログを発見していただき、ありがとうございます!RTBはいかがかしら。
ハッサン君のストーリーは私自身も感動しています。
私はアフリカに関わり始めて13年が立ちました。当時は学生で将来に不安を抱いていた人々が、今ではしっかり仕事をして家を持つ人までいます。とっても感慨深いです。
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